パイメル(PIMEL)とは?旭化成の先端半導体材料の強みとPLPへの展望

半導体
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本記事の概要

本記事では、先端半導体パッケージの再配線(RDL)用感光性材料である、旭化成のパイメル(PIMEL)について、半導体材料の製造と開発に携わって3年になる筆者が解説をします。パイメルは先端半導体になくてはならない存在となっており、供給が不足により、一時先端半導体の製造が停止に追い込まれかねない事態にまでなりました(引用1)。

先端半導体において、なぜパイメルがそれほどまで重要なのか?強みや今後の展望について解説していきます。RDL用の感光性材料全般については以下の記事で詳しく解説しています。

  1. 当社製品「パイメル™」に関する一部報道について 旭化成株式会社
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想定読者

  • 先端半導体向けの材料に興味のある方
  • 先端半導体のパッケージ技術について知りたい方
  • 先端半導体のパッケージ技術の展望について知りたい方
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パイメル(PIMEL)とは?(概要と基礎知識)

旭化成が開発した感光性絶縁材料

パイメル(PIMEL)とは、旭化成株式会社の生産する、半導体製造向け感光性絶縁材料です(引用2)。ポリイミドと言われる高分子材料を主材料にしており、400 ℃を超える優れた耐熱性と応力を緩和するための柔軟性を両立しています(引用3))。1988年の登場(引用4)当初からバッファーコート(半導体チップと封止材の熱膨張係数の違いによる不具合を緩和する材料(引用3))として、半導体パッケージに欠かせない製品として使われてきました。

バッファーコートはチップと封止材の間に塗布することで、チップ-封止材間の熱膨張係数の際による応力差を緩和する

先端半導体のFO-WLPになぜ欠かせないのか?

パイメルは近年、FO-WLPやインターポーザ用の再配線(RDL)材料として経済産業省やTSMCから表彰を受けています(引用5, 引用6)。

なお、FO-WLPとは、Fan out Wafer Level Packageの略です。複数のチップを封止材に埋め込み、ウェハー状にした後、再配線層(RDL)を構築することでチップサイズよりも多数の配線を付加するプロセスを指します(引用7)。

ウェハーレベルパッケージのイメージ。キャリア状に仮固定したチップを封止・再配線形成してパッケージにする。参考: 小型・低コストパッケージとして実用化が始まる FO-WLP JEITA
Fan Out型の再配線層(RDL)形成の模式図。元のチップの配線よりも平面的に広がった形でバンプを形成できる。

インターポーザは再配線層状に複数のチップを搭載したものです。詳しくは別記事で紹介しているので、ぜひそちらをご覧ください。

2025年にパイメルの供給懸念が一部で報道された際には、(旭化成は即座にこれを否定したものの)TSMCの先端半導体製造への影響が懸念されるほど、市場において欠かせない製品として認知されています(引用1)。一方、直近4年で売上高はCAGR18%の伸長を見せており、今後ますますの需要が見込まれていることから、2030年に向けてパイメルの売上高を倍増させるべく、生産能力の増強を打ち出しています(引用8)。

パイメルはなぜ1980年代から30年以上の長きにわたり、半導体製造に欠かせない製品として使われてきたのでしょうか?以下ではその理由を探っていきます。

2. 感光性材料 PIMEL 旭化成
3. ポリイミド材料の展開 東レ株式会社
4. 旭化成レポート2024
5. 令和6年度全国発明表彰「経済産業大臣賞」を受賞 旭化成株式会社
6. 最先端半導体向けの感光性絶縁材料「パイメル™」がTSMC社の「2025 TSMC Excellent Performance Award」で表彰 旭化成株式会社
7. 技術コラム 6-3. Fan-out / Fan-in パッケージ技術(WLP / FO-WLP)オーティス株式会社
8. 旭化成レポート2025

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パイメルが30年以上にわたり半導体パッケージに採用され続ける理由

1980年代からの採用実績(バッファコート材として)

まず第一に挙げられるのは、1988年から採用されてきた、その歴史です。半導体材料は、一度採用されれば長きに渡り使われ続けるのが通例になっています。もちろんプロセスに革新が起こるタイミングで要求に応じた製品に置き換わるのが通例ですが、バッファコートは採用から今まで、常に必要とされてきました。

顧客要望に応える開発力(バンプコートから再配線層へ)

第二の理由は、再配線層用の材料として転用に成功したためです。再配線層用の材料として使われるに至った最初の転換点は、バンプコート材としての採用と考えられます(引用2)。バンプコートとは、フリップチップと呼ばれる、チップの下面に凸型の配線(バンプ)を持つタイプのチップで、熱膨張などで、バンプが破損しないよう保護する絶縁材のことです。パイメルがバンプコート材として採用されたことで、チップの上面だけでなく、配線を持った下面での保護と絶縁を保つための材料としての実績を積むことが出来たと考えられます。

バンプコートは、バンプを熱応力などから保護することで破損を防ぐ。

2024年の旭化成のレポートを読み解くと、バンプコート材として活用をきっかけに、継続的に顧客要望に応えることで、バンプコートから再配線用の絶縁膜として採用されるに至ったと考えられます。

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次世代パッケージ(PLP)への移行とパイメルの課題

WLPからPLPへの転換で生じる「塗りムラ」問題

パイメルは初めはバッファコートとして採用が始まり、バンプコート材への利用、更には再配線用絶縁層としてFO-WLP用材料の地位を築き、先端半導体になくてはならない製品に成長しました。直近4年は売上が年率18%で売上が伸長しており、2030年までに売上を倍増するための設備投資にも積極的です。

前途洋々に見えるパイメルですが、パネルレベルパッケージ(PLP)への転換が見据えられている現在、競合各社がその地位を虎視眈々と狙っています。PLPとは、これまでウェハー状にチップを配列して形成していたパッケージを、角形のパネル上にチップを配列することで生産する方式を指します。PLPの利点は、ズバリ生産性の高さです。ウェハー状に配列するWLPに比べ、同じ面積でパッケージの取れ高が大きく変わります。

Yole Groupの資料より抜粋。ウェハーでは面積あたりのインターポーザーの取れ高が少なく、パネル化することで面積効率が上がり、大サイズ化することでコストがさらに下がる

WLPからPLPに変化することで、再配線層用の材料の塗布方法も変わります。これまではスピンコートと呼ばれる手法で塗布されてきました。スピンコートは、液状の塗布物を滴下し、塗布対象を回転させることで塗布物を膜状にする手法です。ウェハー状の物体では、回転数を適切にコントロールすることで均一な膜を形成出来ましたが、PLPでは角形のものに均一に塗布する必要が生じるため、スピンコートでは塗りムラ(平坦性の不均一)が生じます。塗りムラは露光の際に焦点が合わず、露光不良を起こす致命的な欠点になります。

競合の動向:富士フイルム「ZEMATES(ゼマテス)」の参入

PLPで課題になるであろう塗りムラの問題の解決策を出すことで、PLPの時代の再配線用絶縁材のデファクトスタンダードを狙う動きが各社で見られています。代表的なのは、富士フイルムです。富士フイルムは、2025年に「ZEMATES」というブランド名で、フィルム状の再配線用感光性絶縁材料をリリースすると発表しました(引用9)。

フィルムの形態であれば、出荷時点で膜厚管理が可能となり、パネルレベルパッケージで起こる塗りムラの問題を解決可能です。加えて、フィルム膜厚を制御すれば、今後のRDLも多層化の要求に応える事もできます(引用10)。

旭化成の対抗策と今後の展望(コーター技術との連携の可能性)

一方、旭化成は今後パイメルのRDL用感光性絶縁材料の確固たる地位を確保するため、対策を打ち始めていると考えられます。考えられる動きの一つが、液晶パネル用のコーター技術を持った装置メーカーとの共同開発です。液晶パネル製造では、すでに角形のものに均一な膜を塗布する技術を確立しています。実際にどこの企業と組むのかは不明ですが、例えば東レエンジニアリングは液晶パネル用装置で培った技術を使って、PLP向けのコーターの販売を開始しています(引用11)。パイメルはRDL用感光性絶縁材料としての確固たる地位を築いている背景から、スピンコートからのコーターの置き換えのみで、材料としての地位は脅かされない可能性もあります。

9. 感光性絶縁膜材料の新ブランド「ZEMATES(ゼマテス)™」誕生 富士フイルム株式会社
10. 半導体材料事業説明会 富士フイルムホールディングス株式会社
11. 半導体先端パッケージ向けパネルレベル塗布装置 「TRENG-PLPコーター」の本格販売を開始 東レエンジニアリング

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まとめ:先端パッケージ材料の覇権争いの行方と装置×材料の深化

ウェハーレベルパッケージからパネルレベルパッケージへの移行に伴い、RDL用感光性絶縁材料のデファクトスタンダード争いは始まっています。パイメルが実績を武器に戦い、富士フイルムのZEMATESなどのフィルム材が新機軸を打ち立てて売り込む様相ですが、欠かせない視点は、「いずれの材料もパネル化に伴い半導体製造メーカーは設備投資を強いられる」ことです。パイメルのような液状感光性材料なら、パネルに対応したコーターを、ZEMATESのようなフィルム材なら、ラミネーターの設備導入をTSMCを代表とするファブやASEなどのOSATは強いられます。材料メーカーとしても、導入する設備の性能も含めた材料設計が望まれる状況です。今後は「材料×装置」コラボの発表が多くアナウンスされると予想されます。

どこが次代の勝者となるか?目が離せません。

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