本記事の概要と前提
この記事の結論:
- 配属先の職種・勤務地より、初期の人間関係/上司の質の影響が大きい
- ただし職種ごとに得られる経験値は明確に違う
- 配属直後の判断基準(すぐ離れる/1年様子を見る)を分けるべき
本記事では、化学メーカーにおける技術系総合職の新卒配属、いわゆる「配属ガチャ」について、
- 大手総合化学メーカーに新卒で入社
- 開発や製造を渡り歩いて6年
- 6年で製造ラインの立ち上げ、プロセス開発、生産技術、製造、生産管理など
を時には同時に経験してきた筆者が解説します。「配属ガチャに外れる ≒ お先真っ暗」のように語られることの多い問題ですが、果たして本当なのか?本記事では、実際に技術系の新卒が配属されやすい部署とそこで得られる経験値を紹介し、配属ガチャの本質を探っていきます。
※本記事は、ある大手総合化学メーカーにおける個人の経験を元に書かれています。個社によっては記述内容と実態が異なる場合もあります。
想定読者
- 配属ガチャの実態に興味を持つ方
- 化学メーカーの技術職に興味のある方
- 技術職に求められる役割に興味のある方
化学メーカーにおける「配属ガチャ」とは?
「配属ガチャ」とは、「(新卒の初任配属における)配属部署や配属地域による事実上の待遇格差の総称」と定義します。大企業では、全国および世界各地に事業所があるため、新卒は一律本社に配属、というケースは稀です。人によっては、やりたい職種や勤務地にこだわりがあると思います。しかし、職種や勤務地の選択権は会社側にあるため、本人の希望が通らないことのほうが多いです。配属が運試しの要素を含んでいるように見えることから、「まるで開けるまで中身の分からないガチャポンのよう」と感じられ、「配属ガチャ」と言われています。
化学メーカー技術系総合職の主な配属先と仕事内容
私は化学メーカー以外の業態に疎く、勤務地に関しては個別の企業に依存する要素が強いため、今回は「化学メーカーによくある新卒配属先の職種」に絞って話を進めます。主たる職種としては、
- 研究
- 分析
- 開発
- 技術営業
- 生産技術
- 保全
- 製造
- 品質保証
- 知財
- 生産管理
が挙げられます。以下では、各職種の仕事内容と得られる経験やスキル、大まかなキャリア形成の方向性について解説します。
1. 研究:3〜5年の長期技術目標に取り組む
研究職は理系院卒の方に特に人気のある職種です。理由は明白で「一番何やるか想像しやすいから」です。
研究の仕事は、
- 比較的長期(3~5年)の技術目標に取り組む
- 製品化・実用化が技術的に可能か検証
- 技術課題の解決
- 検証結果を技術レポートとしてまとめる
- (製品化が見えた段階で)見込み客への売り込み
- コスト・リソース・会社目標の収益に対して十分に事業化可能か検証
が主たる仕事です。5以降を行うことはほとんどなく、1~4が業務の大半を占めます。配属は研究所、あるいは研究設備のある工場です。
業務経験によって、
- 仮説構築力
- 仮説検証力
- 文章・資料作成能力
- 実験技術
を高められます。5まで進むことができれば、事業化に必要なコスト意識を身につけることも出来、製品を技術・ビジネス的に深く理解したエンジニアになることが出来ます。
5以降まで進めなくても、研究力を高めた後、テーママネージャーや研究責任者として部下や後輩の指導をしつつ、研究テーマの設定やチームマネジメントを担うことが多いです。
大学での研究との大きな違いは、
- 取り組むテーマが頻繁に変わりやすい(2~3年ごと)
- すでに実用化が見えているテーマが多いため、突飛なことはしづらい
- お金にならない基礎研究はほぼ許されない
- 作業はオペレーターに任せ、実験計画とデータの考察だけするパターンも有る
ことが挙げられます。大学との研究とは違い、一つのテーマを極めることは正直難しいです。
2. 分析:特殊な分析機器を用いた現象解明の専門家
分析は、「特殊な分析機器を用いて現象を解明する仕事」です。多くの分析機は専門性が高いため、分析の専門家は同時に装置の専門家でもあることが多いです。配属はほとんど研究所になりますが、専門の分析部隊を持っている工場に配属されるときもあります。
分析の仕事は、
- 研究や開発からの分析依頼をこなす
- 分析方法を開発・提案し、研究と開発の課題解決を助ける
ことが主たるものです。分析技術を磨き、専門家としてのキャリアを築く事ができます。評価装置が突然廃れることは多くないため、腰を据えてその道を極めやすい職種といえるでしょう。
3. 開発:短納期で顧客志向の製品開発を担う
開発は研究と近い職種ではありますが、違いをまとめると以下のような表にまとめられます。
| 比較内容 | 開発 | 研究 |
| 対象 | 既存事業・製品 | 新規 |
| テーマの期間 | ~2年(たいてい1年程度) | 3~5年(長いと10年) |
| 顧客志向 | 強い | 弱い(そもそもいない) |
| 納期 | 短い、厳守 | 長い、明確ではない |
| 他部署との関わり | 多い | 少ない |
開発は、研究と比べて期間や納期が短く、関わる部署も多くなります。製造や品証、営業と協力しながら顧客の求める製品を開発する仕事です。配属は工場の場合もあれば、研究所のようなところの場合もあります。
納期が苦しいことも多いため、自ずと研究よりも負荷が上がる傾向にあります。一方、短納期で多くの業務をこなすことで、経験値が溜まりやすく、仕事を捌く速さは上がりやすいです。他部署や顧客との対話を通してコミュニケーション能力も磨かれます。何より、自分が開発した製品を直接市場に届けることは、自己効力感を得られます。
一方、業務負荷が上がりがちで他部署との折衝もこなす必要から、ストレスを抱えがちです。納期に追われるため、応急処置的な対策しか出来ず、モヤモヤ感を抱えながらテーマを終了することも多いです。時には技術的な妥協が必要なこともあります。
キャリア形成は、製品開発をチームメンバーとして経験をした後、技術分野や開発チームのマネジメントを担うことが多いです。志向や会社の都合次第で、製造や品証、営業に異動し、そこで経験を積む場合もあります。開発から研究に異動するケースはあまりないです。
4. 技術営業:顧客の技術課題を汲み取り解決策を提案
技術営業(技術サービスとも言う)は、「顧客の抱える技術課題を汲み取り、解決策を提案する仕事」です。顧客が製品に100%満足することはありません。顧客満足度を高めるとともに、信頼感と他社の参入障壁を築くのが技術営業の役割です。製品によっては、実際に顧客や自社の製品を触りながら、顧客ニーズに合った使用条件の提案を行うこともあります。
技術営業が機能すると、以下の効果が狙えます。
- 顧客満足度の向上
- 受注の増加
- 製品改善のアイデアの取得
- 製品改善による参入障壁の強化
- 技術シーズの獲得
昨今注目を集め、私も関わる半導体材料メーカーは、特にこの技術営業に力を入れる傾向にあります。技術的な難易度の高まりと技術革新の頻度上昇に伴う製品寿命の短命化から、顧客との関係性強化による技術シーズの獲得と製品化を早める必要が生じているためです。私自身も製造の仕事を主としながら、技術営業としての役割を求められつつあり、今後ますます重要視される職種です。
5. 生産技術:生産装置や製造プロセスの改善・導入
生産技術職は、「生産装置や製造プロセスの改善・提案をし、実際に導入する仕事」です。配属はもちろん工場です。化学工学や機械系の専攻出身者が配属される傾向にありますが、その他の化学系の専攻でも配属される可能性があります。私も3年目の途中から製造の仕事と並行して生産技術の職務も携わっています。
生産技術職に求められる役割は、
- 生産歩留まりや製品特性、生産スピード(タクト)の改善に向けた、生産プロセスや装置改造
- 生産能力増強時の設備仕様やプロセスの提案
- 設備やプロセスのコスト検証と導入
- 既存設備のトラブル時の対応
などです。製造の仕事と近いですが、製造が日常的な生産ラインの運転や効率化に注目するのに対し、生産技術はトラブル時の対応や新しい設備やプロセスの導入を職務の主眼に置いています。生産技術職で得られる経験やスキルは、
- 現実的な解決策を提案・実行する能力
- 品質管理の知識(リーンシックスシグマなど)
- 設備・プロセス導入時のコスト試算によるP/Lの理解
- 製造ラインや工場全体を考える意識
自分が導入した製造プロセスや設備が上手く稼働し、工場の損益の改善に繋がった時は非常に嬉しいものです。ネックは、時間に関係なく呼び出しがかかりやすいことでしょう。実際、私も土日や深夜に電話が来て、工場まで対応に出向いた経験が何度もあります。
生産技術職として生産ラインを把握し、製造に移ってマネジメントを経験、そして工場長になる、というのが、順調に出世したケースと考えられます。プロセスの専門家として、開発に携わる道もあります。
6. 保全:工場設備・インフラ管理の専門職
保全は、「工場設備の専門家」です。工場は電気や機械、水・ガス・製品などを通す配管など複数のインフラで構成されています。これらインフラの管理や修繕を担当するのが保全マンです。配属はもちろん工場です。
- 電気やガスなどの専門家になれる
- 必要な資格も多いため、他社でも経験が通用しやすい
- 工場全体をよく知れる
基本的には、専門職であるため、非常に潰しの効きやすい職種です。一方、大掛かりな工事の時は駆り出されることが多く、生産技術職以上に深夜土日関係なく呼び出される傾向にあります。
7. 製造:製品の安定生産と現場マネジメント
製造はまさに製品を作るために生産ラインを定常的に回すことが主目的です。総合職でオペレーター(実際に生産ラインで手を動かす人)に配属されるケースは滅多にありません。製造の経験を積ませるため、1年間は生産ラインに入ってもらう会社はあるようです。
製造の仕事は単調でつまらないと思われることも多いですが、実際に製造ラインのマネジメントにも携わった経験から言うと、むしろ日々変化の多い仕事で、学びも多いです。
- 日常的なトラブルへの迅速な対応
- 品質改善のための品質管理の知識と技能の習得
- 変更管理とそれに伴う各種規定(法令やISO、IATFなど)の理解
- 開発、品証、保全などとの円滑なコミュニケーション
- スタッフのマネジメント
- 組織の仕組みづくりによる冗長性の獲得と強化
- 原価構成やキャッシュフローの理解
若いうちに製造のマネジメントをすることで、色々な立場のスタッフと協力して、より強い組織にする経験を積むことが出来ます。工場だと、比較的人の均質性が低いため、コミュニケーション能力の面でも大いに鍛えられます。
問題点は、製造の現場に一度入ってしまうと、今後、開発や研究の仕事をすることがあまりない点です。私の観測範囲ではほとんど見たことがありません。
8. 品質保証:製品の安全性と信頼性を担保する
品質保証は、「顧客やサプライヤーに対して、製品に問題がないことを保証する職務」です。配属の多くは工場になります。製品知識や顧客捌きの巧拙を求められるため、新卒での配属は少なく、経験を積んだ人が担当するケースのほうが多いです。
- サプライヤーの製品の変更点が自社の製品に異常がないことを判断
- 自社の製品の変更点(材料・機械・プロセスなど)が顧客の製品に影響を与えないか管理
- 社内の生産に関わる規定が正常に運営されていることを管理・監督
- 顧客や市場からのクレームの対処
主に製品や製造の変更点を管理・監督する立場です。一番重い仕事は、顧客からのクレーム対応でしょう。自社の品質を保証する立場のため、異常の原因が何か、自社に責任があるなら再発を防ぐにはどうすれば良いか?説明責任を果たす必要があります。
9. 知財:自社の知的財産の管理・監視・戦略立案
知財は、「自社の知的財産(特許など)の管理・監視」が業務です。配属は本社になるケースがほとんどではないでしょうか。製造業は自社のノウハウを使って競争力を生み出しています。ノウハウの一部は特許の形をとっているため、他社が自社の特許を使っていないか?常に監視する必要があります。
最近は、「攻めの特許」という考えも広まりつつあり、特許を組み合わせることでより強力なノウハウとして、自社で囲う戦略を取るため、知財側から開発に向けて、特許の提案を行うこともあります。
新卒でいきなり配属されることは少ないと思いますが、たまに配属される事例を見かけます。
10. 生産管理:納期遵守とコストの最適化を図る
生産管理もあまり新卒の技術系総合職が就くことは多くないです。仕事は、「顧客納期を遵守しつつ、ムダなく製品を作る計画を立てる職務」です。配属は主に工場になると思います。
- 製品を納期通り届けるための生産計画を組む
- P/Lやキャッシュフローを悪化させないための原材料や仕掛品の調整力(マテバラ)
- 製造と連携するためのコミュニケーション能力
いわゆるマテバラの管理は工場経営において重要な技能です。在庫や仕掛品の持ち方で工場の損益は大きく変わるため、必要最低限かつ何かトラブルが合ったときでも対応出来る体制を築くことが出来るか?が生産管理の腕の見せどころです。
私も生産管理も兼務していますが、必要最低限で生産したり、原料を持ってしまうと、トラブルが起こったときにリカバリーが効かなくなります。一方で、過剰に在庫を持ちすぎると損益を悪化させます。昨今の中国の輸出規制などで、原料の納入が遅れることも増えており、バランス感覚が試される仕事です。
まとめ:どこに配属されるか?誰と仕事するか?が重要
以上、化学メーカーの技術系総合職が新卒で配属されやすい仕事の紹介でした。配属の可能性がある仕事は思っている以上に多岐にわたります。最近は入社時点でどんな仕事をするか、配属地はどこか、大まかに合意するケースも増えて来ていると聞きます。しかし、入社後すぐに会社の事情で別の仕事や勤務地に異動することもあるかと思うので、今回の記事が仕事をイメージするための助けになれば幸いです。
仕事は様々あり、人によっては希望しない仕事や勤務地もあるかと思います。初めは興味のない仕事であっても、続けていくうちに面白さが分かってくる、なんていうのはザラにあります。新卒なら、働いた経験はバイトくらいしかない場合がほとんどでしょうし、実体験から言わせてもらうと、新卒時に抱いていた興味関心は、所詮学生時代の狭い経験から生み出されたものでしかありません。様々な経験を積むことで興味関心は移ろうので、そうやって新たな自分の発見につなげていくことのほうが面白いと私は思います。住む場所も、まずはその土地の良いところを探してからでも文句を言うのは遅くありません。私も住んでいる地域の良いところを発見して、今は季節の果物や近所のお店、職場の知り合いを通して知り合った地域の人との人間関係の中で楽しく過ごしています。職種や地域は捉えようによっては「配属ガチャ」にならないというのが私見です。
では、真の配属ガチャとはなんでしょうか?それはズバリ「人間関係」です。何をするか、どこで働くかより、誰の部下として仕事をするか?誰と組んで仕事をするか?のほうが1000倍重要です。
相性が悪かったり、成果を出せない上司の下で働くことで、仕事の出来なくなる作法を学んでしまいます。一度学んでしまった作法を抜くには、デキル上司の下で厳しい指導を受ける必要がありますが、中堅にもなると、結果だけを求められるようになり、指導をしてくれる人はいつの間にかいなくなります。
また、相性の悪い人と組んで仕事をするのは、強烈なストレスになります。私も新人の頃に組んだスタッフが部下の立場を利用してパワハラをすることで有名な人で、非常に苦しみました。協力関係を築けない人と仕事をすることは、百害あって一利無しです。
個人的な経験でまとめてしまうと、「人間関係で問題があるなら配属ガチャに外れたと判断」して、すぐにその職場から去ったほうが良いです。職種や地域に不満があるなら、1年くらい頑張って面白いところを探してみてください。きっと見つかります。どうしても面白くない、意味を感じないと思ったら、職場を離れたほうが幸せになれます。
化学メーカーの待遇や展望も記事にしています。ぜひご一読ください!



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