はじめに: 本記事の概要と対象読者
この記事では、製造業、特に自動車産業で馴染み深いIATF16949のコアツールである、MSAの中の直線性分析について、初心者にもわかりやすく解説します。直線性分析は同じくMSAの偏り分析に基礎を置いています。はじめに偏り分析を理解してから本記事を読んでいただくことを推奨します。偏り分析の記事は以下にリンクを貼ります。
対象読者:
- 製造業のエンジニア
- 量産検討を進める開発職の方
- 研究成果を製品化したい研究職の方
- 品質管理業務に携わる方
MSAを理解することで、品質管理や工程改善の第一歩を踏み出しましょう!なお、本記事は参考文献として『岩波好夫(2017) 図解IATF16949 よくわかるコアツール-APQP・PPAP・FMEA・SPC・MSA-』を使用しています。
MSAの直線性分析の概要とその実践方法
直線性分析の概要
以前の記事でもまとめていますが、直線性の分析は、偏り分析の拡大版だと考えてください。偏りの評価では、1つの基準値に対して、装置や測定者による測定ばらつきを評価しました。直線性は、1つの基準値だけでなく、複数の基準値で偏りの評価を実施します。そうすることで、測定する値の範囲全体での装置や測定器の癖を把握することができます。小さな値や大きな値で偏りなく評価出来ているか?を見るという意味です。
直線性の分析の実践方法
直線性の分析の具体的な実践方法について紹介していきます。準備するものは以下になります。
- 測定者(3名以上)
- 測定器
- サンプル(5個以上)
サンプルは、測定器で実際に評価する測定範囲の上限と下限に近いものを含むように選定してください。測定範囲全体での偏りの分析を実施することが、直線性の分析の肝になります。
ステップ1: 各サンプルの基準値の設定と基準値の全平均X̄の計算
はじめに、各サンプルの基準値を設定します。熟練の評価者1人あるいは複数の測定者で10回以上繰り返し測定を実施し、その平均値を各サンプルの基準値Xnと設定します。合わせて、基準値の全平均X̄も求めておきます。
ステップ2: 測定と解析
基準値の設定が完了したら、実際の測定を実施します。普段装置を使用している測定者を2名以上選び、各サンプルを10回以上繰り返し測定してもらいます。測定値を下に、各サンプルの偏りynを計算します。ynの計算式は以下になります。
yn = xn- Xn
xn: 測定したサンプルnの平均
Xn: サンプルnの基準値
サンプルごと、測定者ごとの偏りynを計算したら、更に各サンプルごとの偏りの平均ӯnと全サンプルの偏りの平均ӯを計算します。
ステップ3: 偏りの最適直線の作成と95%信頼区間の計算
ステップ2で計算した各種値を下に、偏りの最適直線を作成します。この直線の傾きとその95%信頼区間の中に、Y = 0(すなわち、偏り = 0)の直線が収まっていることを評価するため、直線性の分析と呼ぶのです。偏りの最適直線は以下の式を下に計算します。ExcelのSLOPE関数でも同様の計算を実行できます。偏りの最適直線をY = aX + bとして、傾きaと切片bを求めます。
a = (Σxnyn - ΣxnΣyn/ml)/(Σxn2 - (ΣXn)2/ml)
b = ӯ - aX̄
m: 基準値を作る際に繰り返し測定をした回数
l: 評価に使ったサンプルの数
xn: サンプルnの測定値の平均
yn: サンプルnの測定値の偏り
Xn: サンプルnの基準値
ӯ: 全サンプルの偏りの平均
X̄: 全基準値の平均
傾きの最適直線を算出したら、偏りの95%信頼区間Yaを求めます。
Ya = aX + b ± t×√1/n + (Xn - X̄)² /Σ(Xn - X̄)²×√(Σӯn2 - bΣӯn - aΣx̄nӯn)/(ml-2)
t: 自由度ml-2の95%信頼区間に応じたt値
x̄nӯn: 各測定結果と対応する偏りを乗じた値
ステップ4: 偏りの最適直線と95%信頼区間のグラフ化・合否判断
最後に、最適直線と95%信頼区間をグラフ化します。グラフ上にY = 0の直線を描画し、95%信頼区間の中に完全に収まっていれば合格と判断します。不合格の場合は、測定範囲内で偏りが許容できない箇所があるため、装置、あるいは評価者の技量に問題があると判断し、是正の上再度評価を実施します。
グラフのイメージを下に示します。図のような状態なら不合格です。

まとめ: MSAの直線性の分析
以上、MSA(測定システム解析)の直線性の分析の概要と実践方法について紹介しました。
- 直線性は、測定範囲全体における偏りの傾向を把握
- 上下限を意識した複数のサンプルで評価
- サンプルの繰り返し測定により、基準値に対する各区間の傾きを分析
- 傾きをもとに最適直線(近似直線)を作成、95%信頼区間を求める
- 95%信頼区間にY = 0の直線が完全に収まれば合格
MSAの中でも、特に計算が複雑で理解の難しい直線性について解説しました。直線性の分析は偏りの分析やt検定の知識が必須です。ぜひそちらも勉強してください。参考までに以前の記事のリンクをご紹介します。また、安定性やMSA全体の解説もしているので、合わせてご覧いただければ幸いです。これからも皆さんに役立つ知識を共有していきます!
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