半導体単結晶の生産方法:Si、SiC、GaAsの成長技術とその特徴

半導体

本記事の概要

本記事では、半導体単結晶の成長方法について、半導体前工程のエンジニアとして働く筆者が解説しています。SiやSiC、GaAsなど半導体材料ごとに実際に使われている生産方法をその特徴とともに詳細に説明しています。

前工程の概要についても解説しているので、そちらもぜひご一度ください!

対象読者

  • 半導体の生産方法に興味を持っている方

半導体単結晶の概要

半導体単結晶とは、原子が規則的に並んだ、大きな塊のことを指します。成分はシリコンならSiだけで構成された、純粋な物質です。極微量の不純物を加えて、目的の特性を与えたりもします。

例えば、純粋にSiだけで構成された大きな塊だったとしても、様々な配列で原子が並んでいるものの組み合わせ出できていれば、多結晶体(ポリ)と呼びます。完全な不規則配列のものは、アモルファスと呼びます。

単結晶と多結晶、アモルファスの図解

単結晶の製造では、主に以下の要素が求められています。

  1. 大径化
  2. 長尺化
  3. 不良の原因となる結晶欠陥や不純物の低減

1~3の追求によって、半導体チップの生産性改善やコストダウン、品質の向上を目指しています。

主要な半導体材料と成長方法

チョクラルスキー法: Si、GaP、InP、GaAs

チョクラルスキー法は最も広く使われている半導体結晶の生産方法と言えるでしょう。Siを筆頭に、GaP、InPそしてGaAsなど主要な半導体結晶はチョクラルスキー法を使って生産されています。

チョクラルスキー法は、溶融させた原料に種結晶を浸漬させ、徐々に引き上げることで単結晶を得る手法です。

チョクラルスキー法の図解。溶融したB203を封止材にする場合は、特別にLEC法と呼ぶ。

Siは通常のチョクラルスキー法を使っていますが、GaAsやGaP、InPは原料のAsやPが揮発しやすいため、原料の揮発を抑えるための蓋(封止材)として、溶融材料上に液化したB203(三酸化ホウ素)を張ります。この場合は、LEC(Liquid Encapsulated Czochralski)法と呼びます。

溶融した原料は1200〜1400 ℃程度まで加熱されることから、石英のるつぼに入れます。

https://www.ieice-hbkb.org/files/10/10gun_02hen_02.pdf

VGF法: GaAs

GaAsはLEC法のほか、VGF(Vertical Gradient Freeze)法でも生産されています。VGF法では、種結晶をるつぼの下側に配置し、種結晶の上に原料の多結晶GaAsを配置します。種結晶に近い側から加熱をし、原料を溶融させ、徐々に上に向かって加熱部分を移動させることで、溶融後に冷えた原料が単結晶化されます。

VGF法の図解。加熱する部分を下から順に単結晶に成長していく

昇華法: SiC

SiCは昇華法を使って生産されています。目的とするSiCの結晶形が4Hと呼ばれる準安定相であり、2000 ℃を超える高温での成長が必要であることから、原料の蒸発が著しく、溶液での成長には向きません。また、るつぼも石英では融点を超えるため、黒鉛るつぼに原料の粉末を入れます。

SiCの昇華法による成長は以下の課題があります。

  • 4H-SiCの成長のための温度範囲が非常に狭く、2000 ℃を超えるるつぼ内の温度勾配を精密に制御する必要
  • 成長速度が数十μm/hで、数cmの厚みの単結晶を得るために2週間以上かかる
  • 結晶が成長するうちに扇形に広がり、基板にしたときに反る
  • 温度によって昇華ガスの成分の比が変わり、安定した成長が難しい

多くの課題が残っているため、中国や日本、米国中心に結晶成長方法の改善が進められています。最近は、ガス法の開発なども進められており、昇華法よりも速い成長速度を得られるという報告もあります。

昇華法によるSiCの製造。炉内は200 ℃を超える高温となる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjacg/45/3/45_33-45-3-01/_pdf/-char/ja

https://www.denso.com/jp/ja/-/media/global/business/innovation/review/22/22-doc-paper-02-ja.pdf

単結晶インゴットの生産が困難な材料

GaNは単結晶のインゴットの生産が出来ていない代表的な半導体です。実用化されているGaN単結晶は、全て異種の基板上に成長されいます。このため、高品質な種結晶となりうるGaNを製造することがコスト的に非常に困難であったためです。

しかし、最近では高品質なGaN結晶を得る手法の開発も進んでおり、実用化が期待されます。

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まとめ:SiCとGaNの技術的課題と進展

以上、代表的な半導体材料の結晶成長方法について解説しました。SiCやGaNを除き、製造方法は概ね確立されており、比較的安価に高品質な単結晶を得ることができています。

SiCやGaNも技術的な困難さのため高品質な単結晶を得られない時期が長く続いてきましたが、特にSiCは本格的な実用化が進んでいます。

次回: 半導体材料の主要プレイヤーについて解説

次回の記事では、半導体材料を生産する主要プレイヤーについて紹介します。以前の記事では、半導体材料の用途や、半導体の前工程についても解説しているので、ぜひご一読ください!

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