本記事の概要
本記事では、経営における手元資金の重要性について解説します。手元資金が尽きることにより、損益計算書上は黒字であるにも関わらず倒産に至る、いわゆる黒字倒産が発生します。十分な手元資金を確保するために現役の製造エンジニアとして、化学メーカーの工場の損益の責任の一端を担って2年以上になる筆者が仕事上で重要視している指標も紹介します。
想定読者
- 黒字倒産がなぜ起こるのか興味を持つかた
- 製造業で手元資金を確保するために使っている指標に興味を持つ方
- 工場を損益の視点で眺めることに興味を持つ方
黒字倒産のメカニズム:なぜ「利益」があるのに「現金」がないのか
買掛金と売掛金の「支払いサイト」に潜む罠

そもそも、損益計算書上は利益が出ているのに倒産するケースがあるのはなぜでしょうか?これは冒頭でも述べた通り、手元資金(= 現金)が不足し、支払いが不可能となることがあるためです。黒字なのに現金がない、これはなぜ起こるのか。典型的なのは、買掛金と売掛金の期日のズレによるものです。
原料を買うとき、あるいは製品を売るとき、その場で支払いが行われることは殆どありません。多くの場合、「買掛金」や「売掛金」という形で支払いが数カ月後に引き伸ばされます。重要なのは、支払いは行わていなくても損益の計上は可能であるという点です。現金の出入りがなくても、取引が成立しているため、損益を計算し、黒字 or 赤字を計上出来ます。
取引先との力関係がキャッシュフローに与える影響
そして、これら掛け金の支払い発生タイミングは、対サプライヤーあるいは対顧客との力関係で変わります。一般的には、自社の立場が弱いほど、サプライヤーへの支払いは早くなり、顧客からの支払いは遅くなります。これは、
- 基本的に手元資金を自社に囲いたいという各社の意図
- 上記1に基づき、価格や納期の交渉にあたって支払いの発生タイミングが交渉材料となる
ためです。極端な例で、
- サプライヤーへの支払いが1か月後
- 製品の代金の支払いが12か月後
だとすると、最低12か月分の運転資金を現金で持っていないといけません。突発的なトラブルや、散漫な投資によって手元資金が12か月分の運転資金を割った時点で、何かしらの施策を打たない限り支払不能状態になります。施策を打てない結果として、損益的には黒字状態でも、支払い不能となり、倒産する。これが黒字倒産です。
貸借対照表(B/S)から読み取る倒産の予兆

損益計算書上では、売掛金と買掛金の支払いサイクルが掴めず、黒字倒産の予兆を見抜けません。ここで重要になるのが貸借対照表です。
ここで、貸借対照表の構成について簡単に触れます。貸借対照表を大雑把に説明すると、下の図のような構成になります。ここで重要になるのは、流動資産と流動負債の比率です。「流動〜」は、「1年以内に現金化できる、あるいは支払いを要するもの」です。現金も含みます。
「流動資産 > 流動負債」なら、現金同等資産が流動負債よりも多くなり、問題ありません。一方、「流動資産 < 流動負債」と、現金を手元に置くための施策を打たない限り支払い能力が不足することになります。
流動比率の盲点:在庫の積み上がりを注視せよ
おおよその解釈は上記で間違いないですが、一点注意したいのが、「在庫の推移」です。在庫は流動資産として計上されるため、基本的には1年以内に現金化されるとみなせます。ですが、工場の稼働率を上げて売上原価を下げるために需要以上に製品を作り続けた場合はどうでしょうか?見かけ上は流動資産が増え続けますが、それは売れない製品による増加になります。この売れない製品は、然るべきタイミングで捨てる(= 除却)する必要に迫られ、結果として除却したタイミングで損失を計上することになります。
そのため、在庫が急激に「流動資産 > 流動負債」の関係だけでなく、流動資産の中の在庫が急激に積み上がっていないか?も経年で追う必要があります。
製造現場で運用すべき重要指標:CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)
工場で製造現場を管理するにあたり、上記のような資金不足に陥るのは言語道断だとしても、可能な限り手元資金を豊富に持っていることは支払いの余裕につながり、資金を投資に回す余裕につながります。そこで、特定の指標を確認しながら生産管理の業務に当たっています。主たるものとして、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)があります。
CCCは、「材料その他を仕入れてから現金になるまでにかかる日数」を指します。CCCが小さいほど、早く現金化が早いということになります。私の職場では3桁日を目安に管理をしており、なるべく短くなるように材料や製品の在庫がだぶつかないよう、各工程や部署が連携して業務にあたっています。
結論:製造業の経営基盤は「損益」ではなく「現金」である
以上、黒字倒産を防ぐための手元資金の重要性を解説しました。とにかく現金が手元にあることが経営において重要であると分かったと思います。現金を手元に置くために、現場でもCCCを主として在庫の管理を行っています。


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