光電融合(CPO)とは?-注目される理由と実用化のボトルネックを現役半導体材料エンジニアが解説-

化学産業

はじめに: なぜ今、光電融合なのか(現役材料エンジニアの視点)

本記事では、半導体産業で注目を集める、光電融合について、その概要と注目を集める理由を中心に解説します。筆者は半導体材料を得意とする化学メーカーで、実際に通信用半導体の製造と開発に携わっています。業界周りをする機会から得られた生の感覚を含め、詳しく解説します。なお、光電融合はまだ未確立な部分も多い技術であるため、多くの異論もあると思っています。補足や訂正があればぜひ議論させてください。

光電融合の最新動向と業界地図

半導体産業は今、「光電融合」に向かって急速に動き出しています。関連する最近のニュースの一例を以下に挙げます。NVIDIAやBroadcomの大手ファブレスに加え、日本の企業が多数絡もうと企んでいる様子が見て取れます。しかし、そもそも光電融合とは何なのか?なぜそこまで注目が集まるのか?以下で解説していきます。

企業または団体名ニュース見出し
AGC、新光電気、DNP等AGC、新光電気工業、DNP…AIデータセンターの「光電融合」導入で日本企業に勝機到来の理由
住友化学、九州大学KNNは光電融合デバイスの有力材料…住化・九大、超高速動作を実証
Broadcom、FUJIFUJI、米ブロードコムの光電融合スイッチ実装に成功 AIデータセンターの高度化を後押し
NVIDIA、Broadcom等光電融合の業界地図、NVIDIAとブロードコムが先陣 「基本」の22社
Marvellマーベル、光部品のルメンタム買収へ最終段階の協議=報道

既存半導体の弱点:電気配線の限界(消費電力・発熱・速度)

既存の半導体は、本質的な機能である演算に加え、チップやボード間の通信も電気配線を介して実行しています。これまでの進化は、微細化と呼ばれる、配線密度の向上によって支えられてきました。微細化によって高性能化と省電力化が実現出来た時代が長く続きましたが、ここ数年で微細化の限界という言葉が聞こえ初めています(引用1)。

微細化の限界が叫ばれる中、微細化を補う技術として、TSMCのCoWoSやCoPoSなどパッケージに関わる技術が注目を集めました(引用2)。

微細化もパッケージの深化も、半導体に関わる根本的な課題の解決にはなりません。そして、AIの爆発的な発展と普及、それに伴うデータセンターの増加に伴ってそれは表面化し始めています。半導体の根本的な課題とは、「主たる通信手段が電気であること」です。電気通信の根本的な問題の代表を上げると、以下になります。

  • 消費電力の大きさ
  • 通信効率が悪い(≒ 発熱、消費電力の増加、長距離通信に向かない)
  • 微細化に伴う配線間の電磁波干渉と通信品質の悪化
  • (光と比較して)速度が遅い

つまり、電気を使うことがそもそもエネルギー効率が悪く、微細化によって省電力化を進めても、S/N(シグナル/ノイズ、信号品質の一般的な尺度)も悪くなるジレンマが起きていました。パッケージの大型化が進む背景もある中、通信距離が伸びる状況で電気通信ではチップの性能を活かせる通信の速度を担保出来ない可能性も見えてきました。

そこで、光を通信の基軸に据える光電融合技術が急速に注目を集め始めています。

光電融合(CPO)のメリット:電気を光に置き換える理由

光電融合技術は、端的に言うと「電気で行っていた情報のやり取りを光で代える」技術です。光ファイバーを使った有線ネットのような光通信も光電融合技術の一種と言えます。今回の光電融合では、半導体パッケージ内の電気通信まで光通信に置き換える「CPO(Co-Packaged Optics)」の実装と普及が期待されています。

現在考えられているCPOの概念図を下に示します(引用3、引用4)。現在導入の検討が進められているCPOは外部から受けた光信号をパッケージ基板に実装した受光器で受け、レーザーで光信号を受信チップに送ります。受信した信号をアンプで整形・増幅しチップレットに伝送します。チップと外部信号とのやり取りの一部を光で行うのが現在考えられているCPOですが、将来的にはパッケージの配線が全て光配線になることも考えられます。

CPOの概念図。パッケージ外からの信号がチップに行くまでの間の一部が光通信に置き換わるとされている。

電気に代わって光を使うことは以下のメリットがあります。

  • 高速
  • 信号ロスがほぼない
  • 発熱少ない
  • 低消費電力

特に、高速で低消費電力である点によって、従来の半導体が抱える課題を一気に解決します。電気の代わりに光を使うメリットは大きいものの、CPOの本格的な普及には至っていません。以下では普及に向けた課題を材料の視点から示します。

光電融合の実用化を阻むボトルネック(材料視点)

CPOの普及には、最低でも以下の材料が新たに必要とされます。

  • パッケージに実装可能なレーザー光源
  • 光を届ける導波路材
  • 光信号を受ける受光器

さらに光を収束・集光するためのレンズや光信号を制御するプロセッサーなども必要になると見られています。

ただし、CPO実現のボトルネックは「光源・受光器・導波路材」と考えられます。理由は以下です。

  • レーザー光源用の材料である、InP結晶の供給力不足
  • レーザー光源を生産できるメーカーが限られている
  • パッケージに実装するに足る導波路材がない

レーザー光源の材料である高品質なInP結晶を製造出来るメーカーは世界でも数社しかなく、日本の住友電工やJX金属、アメリカのAXT社がメインプレイヤーです。これらの会社は現在急ピッチで生産量の拡大を図っています(引用5、引用6、引用7、引用8)が、需要に追いついていません。最近は中国系の企業が目覚ましい成長を見せていますが、国外への輸出は規制によって難しい状況が続いています。そのため、InP結晶の供給力不足はしばらく続くと見られています。

InP結晶の品質はレーザーや受光器の信頼性に大きく関わります。レーザーや受光器の劣化が起これば、パッケージ内の通信も成り立たなくなります。部品交換の手間やコストも高くつくため、高品質なレーザーを作るための高品質なInP結晶が求められます。そのため、単純に需要を満たす数を出すだけではボトルネックの解消につながりません。そのため、特に付加価値の高い通信用では、実績のある住友電工やJX金属、AXTが新興メーカーに対して参入障壁を築いている状況です。単純に供給者が増えればボトルネックの解消につながるわけではありません。

導波路材はこれまでの長距離通信で使われていた光ファイバーに代わる、柔軟で形状の加工が自在な材料が求められています。現在化学メーカーが開発にしのぎを削っている状況で、登場はまだ先になる見込みです(引用9、引用10、引用11)。

まとめ: 光電融合が次世代半導体のパラダイム・シフトとなる

AI半導体の爆発的な需要増加により、半導体に求められる性能がこれまでのチップ単体からパッケージ全体に渡るものに急速に変化しました。そして、半導体の需要増に応じて顕在化した、消費電力や熱の問題を解決しないと進化を継続出来ない段階に来ています。

そのような状況下、光通信の技術がブレイクスルーになりうると見られており、各社が実用化に向けた開発に急速に舵を切っています。おそらく1~2年後には実用化され、半導体は光を中心にした技術競争に本格的にシフトします。次の半導体の中心になる、光技術に注目です。

※本記事の内容は筆者個人の見解および業界の一般的な動向に基づくものであり、所属企業の公式発表や見解、営業機密を代表・代弁するものではありません。

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